かつて浅草・千束通りにあった、おもちゃ屋ゲーセンの【コユキヤ玩具店】へ。
最大限のリスペクト・感謝を込め、この記事を捧ぐ‥
【本編スタート】
「1個上のくせにまるでよえーじゃねえか。
まっ、根性だけは認めてやるがな。」
ピクピクと小刻みに震えながら這いつくばる小柄なトシちゃん(T小6年)を見下ろし、大柄なキッド(A小5年)がそう吐き捨てた。
決戦の地である薄暗い駐車場から、ノソノソと、わざと貫録タップリ出ていこうとするキッド。
しかし、その後。
その場にいた全ての者が想像すらしなかった結末が待っていたのだった‥‥
1990、夏の日の君に送る。
【浅草千束 夏の陣 バトル・オブ・コユキヤ】をここに記す。
(時は1990年。芸人だよ、バカヤロー。な町、台東区・浅草の物語。)
まず登場人物と時代、現場を簡単に説明させて頂こう。
任天堂よりスーパーファミコンが発売。
フジテレビでちびまる子ちゃんが始まり、主題歌【おどるポンポコリン】が大ヒット!
経済では、世界を席巻していた日本株式会社の株価がアメ◯カもとい、大人の事情により大暴落(バブル崩壊)‥
しかし、忍び寄る不景気の風など知ったもんか!的な熱気に町がまだ包まれていて‥
そんな時代、時は平成2年、1990年の夏休みのこと。
場所
浅草・千束通り。
おもちゃ屋ゲーセン
【コユキヤ玩具店】※以下コユキヤ
登場人物
A小学校(4人)
小学5年生
キッド・A・B
小学6年生
見届人・㐂よし
T小学校(2人)
小学校6年生
トシちゃん 見届人・チキ(筆者。以下・ボク)
A小学校のAは浅草キッドに由来
トシちゃんの由来は、教師びんびん物語でビンビンしていた名スター・田原俊彦さんより。
T小学校のTはトシチャンの名字に由来
浅草の中心街・雷門〜花川戸エリアを学区にもち、『我らこそ真の浅草っ子なり!』のプライドを持ち、基本イキる少年が多いA小学校。
田原町〜寿・駒形エリアに拡がり、A小学校にややコンプレックスを抱くも、『士農工商最下層の町人のくせに生意気な‥』的、御蔵前なサムライスピリッツをもつT小学校。
私立進学+越境入学も多いのだか、庶民達の多くは長ずれば同じ公立の中学に通う事になり、ガッツリ仲良くなるA・T両小学校(S53.4~S55.3世代)のアナザーストーリー、ここに開幕。
(仲見世⇒浅草寺を超えた先。千束通りは両津勘吉の地元だよ。)
(男なら誇りをもってドンといけ!千を束ねてドンといけ!)
コユキヤは、浅草方面から見て、花やしきを通り越し、千束通りを入ったすぐの所にあったおもちゃ屋。
時流に乗り、ガンプラやZOIDSなどのプラモ系はもちろん、ミニ四駆やファミコンの品揃えも豊富なコユキヤは、カードダス20やガチャの品揃え下町トップクラスだったトイス館Fromオレンジ通りや、松屋の屋上遊園地などと共に、浅草っ子のハートと財布をガッチリと掴んでやまなかった往年のプレイスポットだった。
A小学校をはじめ、🗻小学校、Waiting for Milk Mountain小学校、ゴールドドラゴン小学校、そして我等がT小学校など、近隣には小学校が数校あり、その生徒達がこぞってコユキヤで屯したのである。
コユキヤの店の奥には、数台のアーケードゲーム機が置かれた小部屋があり、これがまあ、さらに下町のじゃりン子達のハートを掴みまくった。
子供が数人入れば満員の小部屋でのこと。
やれ.順番がどうだこうだ。
やれ.足ふんだだ、息がクセーだ。
やれ.島本時◯塾で、俺は2特だ文句あるか?お前ら普通クラスのくせにいきがりやがって!とか。
小学生は小学生同士の、中学生は中学生同士の、揉め事が日常茶飯がごとく起こっていたのも、昭和の残り香が成せる、古き良き時代の特権だったのだろう。
そんな折、キッドとトシちゃんとの間に、義理も人情も、仁義すらない闘いが勃発したのだった‥
(ファイナルファイト、懐かしいよね〜。写真はイメージ(息子氏)です。)
「テメエ、俺が先に50円置いたろうが。
割り込みすんじゃねーよ。
やんのかコラ?あ〜ん。」
A小学校5年生、キッドの声がこだまする。
4月・5月生まれにありがちな、体の生育が平均より早く、変声期も早く訪れ、故に足も早く、大人っぽい風貌から、喧嘩も強い!と周囲から思われ、損してんだか得してんだか、今となっては全くわからない‥
そんなクラスメート皆さんにもいたのではなかろうか?
キッドは多分、そんな少年だった。
ちなみに50円を置くとは、ゲームの画面上にコインを置き、次の順番は俺だ!とマーキングする行為である。
「コラコラコラコラ。
こっちが先に50円置いただろ。
【ファイナルファイト】の頭突きしてくるデブみ
たいな図体しやがって。ボケが」
すかさず言い返す、T小学校6年生のトシちゃん。
下手すると1個下と数日しか誕生日が変わらない、変声期もまだ迎えていない、ガッツリ早生まれ(3月)の口が達者な少年であった。
とにかく、暗い室内でピコピコと各種のアーケードゲームが奏でるMelodyがこだまする室内。
その後どの様なやり取りがあったかは忘却の彼方(聞こえなかった)なのだが、気がついたときには『表出ろ、テメー』状態になっていた。
なんとなく臨場感を皆様にも味わっていただきたいので、ymac fc3sさんの芸術的なPlay動画をリンクさせて頂くので、ご覧いただきたく。
「チキは手は出すな。コイツは、コイツだけは、俺
がやる。
タイマンはってやる。はってやるよ、タイマンを
な。てめぇにげんなよ、コラ~
トアァ〜!!」
対句、倒置法、文末の意味不明な咆哮など。
短い文面ながら文法がめちゃくちゃであるがゆえ、トシちゃんの迸る怒りを感じた。
基本的に小柄で強くなさそうなのだが、頭の回転が早くウィットに富んだ表現で相手に言い返すがゆえ、駄菓子屋・ゲーセン等での揉め事のほとんど全てのきっかけを創り出し、さらに突然のキラーパスでボクを巻き込むのがトシちゃん流喧嘩ビンビン物語だったのだが‥
それがタイマンはるか‥これは見守るしかない。
ボクはそう思った。
「㐂よし君。
コイツ等逃げんよ〜に見張っといてくださいよ。
A、B、お前らもだ、いいな。
このチビスケ(トシちゃん)と、タイマンはって
やるよ。アンタ(チキ)も来いよ、コラ。」
ちなみに、㐂よしはただコユキヤで単独でゲームをしていただけだった。
キッド達とつるんでいた訳ではないので、一連の流れに最初から「なぜ俺が??」的はてなマークが出ていた(笑)
ともあれ。
気付いた時、A小学校は5人、T小学校は2人。
数的にも人的にもA小学校優勢の中、薄暗い駐車場の中でキッドVSトシちゃんのにらみ合いからバトルが始まったのである。
(アーケードも改築され、キレイになった千束STREET。闘いの舞台は奥まった駐車場だった。)
東邦の若嶋津くんが余裕ぶって南葛の来生くん(あるいは滝くん)の強烈なミドルシュートを空手チョップで叩きのめす際に発する感じの『キェー!』みたいな奇声が駐車場にこだまする。
声の主はトシちゃん。
見事な先制攻撃いや奇襲攻撃であった。
そして。
その奇声と共にキッド目掛けて突進するも、上から振り落とす重たいグーパン一撃を振りかざすキッド。
それをまともに受け、地面にうつ伏せのまま倒れ込むトシちゃん。
奇襲は失敗に終わり、誰の目にも勝負は決したと思った。
それほど見事なKO劇だった‥
「まだやるか?
やらねーんだったら、そこでねてろ。雑魚が。」
キッドのやっぱり貫禄タップリの台詞を聞き、ピクピク蠢き始めたトシちゃんだったが、そのあまりにも嘘くさいピクピクっぷりは、思わず敵であるはずの㐂よしと目を合わせてと笑ってしまうほど滑稽だった。
その様子を見てキッドが放った言葉が、冒頭のセリフ(まっ。根性だけは認めてやるがな)だったのである。
(かつてコユキヤがあった場所に、今はマンションが建っている)
いつも前へならえの時に一番前で腰に手を当てていた小柄なトシちゃん。
計算ドリルをいつも教室の机の中に入れっぱなしで、家に持って帰らなかったトシちゃん。
午後の紅茶(ミルクティー味)をこよなく愛し、デップリとした体形が妙にチャーミングだったトシちゃん。
根性だけは認めてやると言われたが、その根性が何なのか?全くわからずブチのめされ、ピクピクしている目の前のトシちゃん
そんなトシちゃんとの思い出が走馬灯の様に脳内を駆け巡る。
「立ち上がれ、トシちゃん。
トシちゃん、負けるな!」
心の中でそう呟いている自分がいた。
その祈りが天に届いたのか?
蠢いていた黒い影が急にムクっと立ち上がり、かと思えば、いきなり走り出したのだ。
(小6のボク。後ろで笑顔が眩しい少年(黒塗り)がトシちゃん)
その影は、余裕しゃくしゃくで駐車場から出ていこうとするキッドの方へ・・・
「セイヤ~※1」or「タイガ〜※2」
※1ゲーム・ファイナルファイトの主人公コーディ・ガイが飛び蹴りを出す際に放つ台詞
※2ゲーム・ストリートファイター2のキャラ・サガットが必殺技を出す際に放つ台詞
トシちゃんがなんて言ったのか?
各々別の言葉に聞こえたと分かったのは後年の話だが、ボクにはその時「セイヤ~」と聞こえた。
その掛け声とともに、背中に思いっきり飛び蹴りを敢行。前のめりに倒れこむキッド。
一歩間違えば大事故につながる状況だが、そこは運動神経が平均よりやや劣るトシちゃんの飛び蹴りの到達点の低さが幸いした。
結果としてキッドはほぼ無傷だった。
負けたと思わせ油断させ、慢心した所を一気に叩きのめすスタイル‥‥
そ、その戦法は、
【釣り野伏せ※】‥
※九州の覇者・島津家が得意とした戦法。
敗走後に敵を誘き出し挟撃して殲滅。豊後の大友家を破った耳川の戦いが有名。
と思う向きもあろうが、そんな高尚な戦術ではなく、ただの後ろからの騙し討ちであった事、特に言及の必要ありましょうや?
とにかく一気に形勢逆転、急転直下の出来事に理解が追いつかなかったのが大きな理由であったのだろう。
あれほど貫禄たっぷりだったキッドが、その場で突っ伏し、わんわん大粒の涙を流し泣きはじめてしまったのである。
そんなキッドを見て、その場に立ち尽くすより他がない㐂よし・A.Bとボク。
それは、今の今まで憎き敵同士であったトシちゃんでさえも同じであった。
どちらが勝ちでどちらが負けか?
その後、どうなったか?
ボクの記憶はぼんやりとここで終わってしまっていて、定かではない。
ひとつだけ確実に言えること、それはキッドとトシちゃんの死闘【バトル・オブ・コユキヤ】は幕を閉じた!という事だった。
ボクら世代にとって、青春の群像と重なる曲多数のスーパーバンド・Mr.Childrenの【Tomorrow never knows】を聴くと、コユキヤでのあの夏の日の出来事を思い出す。
『勝利も敗北もないまま、孤独なレースは続いてく‥‥』か。
あれからいくつもの、勝利も敗北もない闘いを繰り返してきただろうか??
そして、コユキヤで遊んでた様な日々が続いて、気づけばいつしか大人になってしまうなんて、あの頃は想像すらできなかった。
明日は決してわからない‥
Tomorrow never knowsな每日だったよ。
そうそう。ボクらのその後について。
トシちゃん、㐂よし、ボクは、同じ台東区立A中学校(旧・蔵前中学校+旧・福井中学校が合併して誕生)に入学する事になる。
初めて㐂よしと校内で会った日、お互いに『あ〜!あの時の!』となり、その後仲良くなった。
トシちゃんは、相変わらずぽっちゃり体型を維持しながら、苦手な勉強も頑張り、卒業後に家業を手伝う事となる。
キッド、A、B達は全員他の区立中学校に進学したと聞く。
その後、お互いの人生の中で偶然エンカウントしたとしても、気づかずに通り過ぎていく様な存在になってしまった。
しかし。
大人となったボクの心の中には今も、キッド達コユキヤでしのぎを削った強敵(とも)達が燦然と輝いている。
袖振り合うも多生の縁と世人はいうが、ボクらはコユキヤで出会い、喧嘩に発展するという、密度の濃い時間を共有した同志と言っても過言ではないだろう。
その縁に感謝しつつ、筆を置くこととする。
【浅草千束・冬の陣 雉も鳴かずば撃たれまい 憤激の赤き鬼 コユキヤ純情編】へ続く。
【エピローグ】
浅草・雷門より徒歩圏内にある【たぬき通り】。
その中に、魚貝をメインに美味い料理・旨い酒を飲ませる、地元でも人気の飲み屋がある。
小上がりとカウンター席4〜5席のこじんまりした店内は、店主の気配りが行き届いており、一人でもゆっくり飲める所も魅力だ。
その店の名は【㐂よし】
店名は、店主の亡き祖父の名前に由来。
かつてコユキヤで繰り広げられた、1個下達の勝利か敗北かわからぬバトルを臍を噛む思いで見ていた少年・㐂よしが長じて独立、開店させた店である。
とどまることを知らない、Tomorrow never knowsな毎日を生きる人々の胃袋と思い出を満たしながら、今日も元気に営業中である。
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